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デザインは経営を変えるのか? 地域企業の成⻑事例から学ぶデザイン経営

2026年10月1日、ももスタにて「デザインは経営を変えるのか? 地域企業の成長事例から学ぶデザイン経営」を開催しました。

今回のゲストとしてお迎えしたのは、株式会社SASI DESIGN代表取締役の近藤清人(こんどう きよと)さんです。デザインを通じて企業の課題解決に取り組む近藤さんに、デザイン経営の考え方や、地域企業が実践するためのヒントについてお話しいただきました。

デザイン経営は、大企業だけでなく、中小企業やスタートアップにとっても注目されている考え方です。しかし、デザインと聞くと、ロゴやチラシ、Webサイトなど、見た目を整えることを想像する人も多いのではないでしょうか。

今回のイベントでは、デザインを単なる制作物として捉えるのではなく、経営課題の解決や組織のあり方、働く人の価値観にまで目を向け、デザインを経営にどう生かせるのかを考えました。また、参加者同士が対話を通じて、自分の仕事に対する強みや価値観を掘り下げるワークショップも行われました。

 

 

【当日のタイムスケジュール】
● 18:30〜18:35  オープニング
● 18:35〜18:50  会社紹介・自己紹介
● 18:50〜19:40  クロストーク
● 19:40〜20:00  質疑応答・写真撮影
● 20:00〜20:10  クロージング
● 20:10〜20:30  交流会

 

まず近藤さんは、個人の活動としてデザインの研究を続けており、「デザインとは何か」を日々考えていると話しました。デザインの歴史をたどると、アートや哲学、産業社会、社会課題など、さまざまな分野とのつながりが見えてきます。デザインを理解するには、目に見える成果物だけでなく、その背景にある考え方や社会の変化にも目を向ける必要があるといいます。

講演では、ロゴやパッケージ、製品、Webサイトなどの制作事例にも触れながら、デザインを外部のデザイナーに発注するだけで終わってしまうことの問題点が示されました。制作を依頼して成果物を受け取るだけでは、デザインが持つ可能性を十分に生かせない場合があるからです。

そこで紹介されたのが、利用者や関係者もデザインの過程に参加する「参加型デザイン」という考え方です。デザインの方向性を決める段階から関わることで、関係者自身が課題を捉え直し、一緒に解決策を考えられるようになります。

 

近藤さんは、デザインの担い手はデザイナーだけではなく、そこに関わる人々自身でもあると説明しました。

また、デザインの変化について、従来は利用者のためにデザインする段階だったものが、利用者と一緒にデザインする段階へと進み、これからは人々自身がデザインする時代になるという考え方も紹介されました。デザインを専門家だけの仕事と考えるのではなく、誰もが課題の発見や解決に関われるものとして捉えることが、デザイン経営を考えるうえでの重要な視点となります。

講演では、企業経営におけるビジョンと、そこで働く人々の関係についても話が展開されました。

近藤さんは、ビジョンを「自分たちの活動によって、未来にどのような選択肢が生まれ、何が変わるのかを示すもの」と捉えています。日々の仕事は、一つひとつが積み重なることで、本来はビジョンの実現につながっていくはずです。

しかし、仕事を続けていてもビジョンに近づいている実感が得られない場合があります。その原因は、ビジョンそのものが適切でないことや、仕事の進め方に問題があることなど、さまざまです。ところが、日々の業務に追われると、目の前の仕事をこなすことだけに意識が向き、ビジョンとのつながりを見失ってしまうこともあります。

 

一方で、近藤さんは、ビジョンを掲げて社内に浸透させれば、それだけで人が集まり、主体的に動くようになるわけではないとも説明しました。

例えば、就職先を選ぶとき、企業のビジョンへの共感だけで進路を決める人ばかりではありません。仕事内容に興味がある、自分の経験を生かせそう、自分がやりたかったことに挑戦できそう、家族の近くで暮らせるといった、個人の希望や生活に関わる理由もあります。

つまり、働く人は会社のビジョンだけを見ているのではなく、「ここで働くことで、自分はどうなれるのか」という期待も持っています。企業側がビジョンを伝えるだけでなく、一人ひとりが何を大切にし、どのような働き方や人生を望んでいるのかを理解することが重要です。

仕事と私生活も、切り離して考えられるものではありません。仕事が充実すれば家族との生活にもよい影響が生まれることがあり、反対に、私生活の充実が仕事への意欲につながることもあります。近藤さんは、働くことを単に生活のための手段として捉えるのではなく、自分にとって面白いものにしていくことの大切さを語りました。

組織のビジョンと、働く人それぞれの思い。その両方を理解し、重なる部分を見つけていくことが、周囲を巻き込みながら新しい価値を生み出すための出発点となります。

 

 

では、デザイン経営を実践するには、何から始めればよいのでしょうか。

近藤さんは、まず問いを立てることが重要だと話しました。目の前にある問題をすぐに解決しようとするのではなく、「本当は何が大事なのか」「何を必要としているのか」と問い直すことで、これまで見えていなかった課題に気づくことがあります。

ただし、自分たちにとって本当に必要なものを見つけるのは簡単ではありません。日々の仕事に追われていると、考えるための時間や余白を確保すること自体が難しくなります。だからこそ、目の前の作業をこなすだけでなく、一度立ち止まって物事を分解し、過去から現在までの経緯や、これから向かう未来を整理することが求められます。

また、子どもの頃はさまざまなことに挑戦できても、大人になるにつれて失敗を避けるようになり、過去の成功体験にとらわれてしまうことがあるという話もありました。これまでのやり方を守るだけでは、新しい可能性を見つけにくくなります。言葉でうまく説明できない感覚も、最初から切り捨てるのではなく、考えを深めるきっかけとして受け止めることが大切です。

 

参加者から「デザイン経営の第一歩は何か」と質問が出ると、近藤さんは、最初から大きな挑戦をする必要はないと説明しました。失敗しても取り返せる範囲で、小さな挑戦を重ねていくことが大切です。最初から完璧な計画を立てようとするのではなく、まず一歩を踏み出し、そこから学びながら進めていく姿勢が求められます。

また、周囲の人を巻き込む方法については、相手を一人の人間として向き合い、会社のビジョンと本人の思いが重なる部分を確かめることが重要だと話しました。組織の規模が小さくても、デザイン経営に取り組むことはできます。誰を仲間と考えるのか、その範囲を広げて捉えれば、顧客も一緒に価値をつくる仲間になり得ます。

成功事例だけでなく、うまくいかなかった事例も紹介されました。ある菓子ブランドのデザインを決める際には、関係者の間で十分な発言がなく、責任者の意思決定も明確にならなかったことで、デザインをうまく決められなかったといいます。近藤さんは、思いや考えは、言葉にしなければ相手に伝わらないと指摘しました。

 

対話を重ねて、本当に大切にしたいことを確かめる。そして、一人で抱え込まず、関係者が協力して取り組める状態をつくる。デザイン経営は、見た目を変えることだけでなく、組織の中で考えを共有し、意思決定を進める方法にも関わっています。

講演の後半には、参加者同士がペアになり、シートを使って互いにインタビューするワークショップが行われました。約30分にわたり、自分が仕事の中で感じている強みや、大切にしている価値観などをテーマに対話を進めました。

普段の仕事では、目の前の業務を優先するあまり、自分が何を大切にしているのかをじっくり考える機会は限られています。今回のワークショップは、相手の質問に答えながら、自分自身の考えを言葉にして整理する時間となりました。会場では参加者同士の会話が弾み、それぞれが自分の仕事や価値観を見つめ直していました。

近藤さんは、こうした対話や内省を、企業を経営する人たちにも実践してほしいと話しました。また、自分の中にあるジャーナリズムのような視点が、美意識につながるという考えも示しました。

参加者からの学校教育についての質問では、文系と理系のように分野を分けすぎることへの問題意識も語られました。ものをつくることと、それをどのように使うかを考えることは、完全に切り離せるものではありません。異なる視点を組み合わせて物事を捉えることも、デザインを考えるうえで大切な要素です。

デザイン経営は、ロゴや製品を新しくするためだけのものではありません。自分たちが何を目指し、誰と、どのような未来をつくりたいのかを問い直し、対話を通じて行動につなげていく取り組みです。イベントの最後には参加者と一緒に恒例の「ももスタポーズ」を行い、交流を深めました。

 

 

近藤さん、そしてご参加いただいた皆様ありがとうございました!